昔ながらの装いと道具がトロな感じで、終戦後から高度経済成長期の日本を思い出させるような懐かしい光景であります。
そんな"靴磨きおじさん達"がこよなく愛する缶入りの油性ワックスについて今回はお話をいたします。
まず平べったい缶に入っている油性ワックス、この正体は一体何なのでしょうか?
乳化性タイプと呼ばれるビン入りの乳化性クリームは油とロウに"水"が加わっているものであります。
油性ワックスとは簡単にいえば乳化性タイプに入っている水が無い、油とロウだけで造られているものなのです。
初期の靴クリームはこの油性ワックスでしたのでそういった意味では"元祖靴クリーム"と言えます。
しかし、この乳化性クリームと油性ワックスは製品分類として大別すれば
靴クリーム(あるいは靴墨)として同類にみなされますが、用途は大きく違います。
乳化性クリームは水分があるので皮革に浸透して潤いを与えるのに対して、
油性ワックスは皮革の表面にロウの膜を造って優れた光沢と防水力を与える仕上げ剤的な製品なのです。
余談ですが一般の方の多くは「乳化性クリームと油性ワックスは容器が違うだけ、
つまりビン入りと缶入りの違いだけである。」と思っていますので、
"栄養クリーム"と"仕上げ剤"の違いを説明するだけで
「へぇ、へぇ、へぇ!」と「トリビアの泉」的な驚きを与えることができます。(※注意!これはむだ知識ではありません!!)
話がそれましたが、このように油性ワックスは水分を皮革に与えないために、
ワックスだけでお手入れしていると、革靴の通気性が悪くなり、また乾燥も進みひび割れの原因となります。
あくまで基本は乳化性クリームで潤いを与え、その後ワックスでより鋭い光沢感と防水力を与えるのが正しい使用法です。
したがって、R&D的考察で言えば、靴に大量のワックスを使用することは「悪」ということになります。
ワックスは薄く全体にかけた後、徹底的に磨き込めば十分な光沢感と防水力が得られます。
「それでは、なぜプロである靴磨きのおじさん達が油性ワックスをべたべたと塗りたくっているのですか?」
といった質問も受けますが、この答えは簡単です。
彼らは靴のお手入れ(シューケア)ではなく靴磨き(シューポリッシュ)のプロだからであります。
終戦後の物資が乏しかった時に、油性ワックスはアメリカの進駐軍とともにやって来ました。
シューシャインボーイと呼ばれた子供たちの、ワックスだけで靴磨きをする手法が
日本の靴磨きのスタンダードとして定着したのです。
1950年代には「東京シューシャインボーイ」「ガード下の靴磨き」など、
大ヒットした流行歌もあったくらい街角での靴磨きは日常的な光景でした。
そのなごりが今日も残っているという訳であります。
(※注意!もちろん靴磨きおじさん達の中にも、靴の素材をいたわりながらお仕事をされている方もいらっしゃいます。)
また、先ほどワックスは大量に使用しない方が良いと申し上げましたが、大量に使用して良いケースもあります。
それはつま先やカカト部分といった芯が入っている部分に対してです。
これらの部分はもともと通気性もあまり無く、歩行時も可動しないので厚めにワックスを塗ってもOKです。
つま先部分とかかと部分だけが極度に光り輝き、靴全体に光のトーンができてファッション性もアップします。
最近の靴ブームも手伝って人気のある仕上げ方法で"鏡面仕上げ"あるいは"ハイシャイン"と呼ばれています。
ところで、冒頭「最近、路上の靴磨きのおじさんやおばさん達の数がどんどん減っている」と申し上げましたが、
実際のところは?・・・・・・答えは「YES」であります。
実は路上での靴磨きは許認可制になっていて、現在お仕事をされている方々以外に新たな許可はおりません。
したがって現役の方が廃業するたびに、路上での靴磨きの光景はどんどん減っていくのであります。
・・・・・・「へぇ、へぇ、へぇ!」これはちょっとした"むだ知識"になりませんかねぇ!?
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