アニリンカーフクリームのお話
「このクリームはアニリン染めに使えますか?」
「アニリン染めにクリーナーは使わないようにと言われましたが汚れたら
どうするのですか?」
「アニリン革の見分け方は?」
「アニリン染めって一体何?」
等々“アニリン”となると、洪水のような質問攻めにあってしまいます。
ではいったいアニリンとは何者なのでしょうか?
「アニリン染料は酸性の合成染料である。」なんて言われも何かピンと来ません。
そこで苦手な化学(ばけがく)の見地から解明しようと辞典をめくってみた
ものの、舌を噛みそうな薬品名、反応などの元素記号がごちゃごちゃと記され、
ますますわけがわかりません。
よって、できるだけ人間的な分かりやすい言葉で概略を説明させて頂きます。
ご存知のように色付けの材料には「顔料」と「染料」があります。
「顔料」は水や油に溶けることはないのでペンキのような塗料として表面の塗装
に使われています。
革靴の場合はローファーなどに使われているガラス革が代表格です。
一方、「染料」は水などに溶けますので繊維に(革も含め)染み込み色が染まります。
アニリンは化学で作られた「染料」ですが皮革に使用しますと透明感が出て
革の表面にある筋、毛穴などの模様が美しく浮き出され「アッ、革だなァ」
という質感が得られる染色方法です。
また「染料」だけを使用したもの以外に少量の「顔料」を混ぜたものがあります。
前者を「ピュアアニリン」、後者を「セミアニリン」と呼んでいます。
しかし、美しいアニリン染めもいいことばかりではありません。
色アセ、色落ち、シミになりやすいなど革にとって致命的な
欠陥が生じるのもアニリンです。
これは染色後にタンパク質系の仕上げ剤をぬり、グレンジング
(摩擦)することでツヤを出す仕上げ方法であるというのが
大きな原因です。(コーティング力が弱い)
さて、こんなデリケートな革のお手入れは“表面を守る”という
ことを最優先させることが必要ですが、同時に美しさや、長寿も
考えなくてはなりません。
当社に「M.モゥブレィ・アニリンクリーム」というものがあります。
輸入前のサンプル実験のときアニリンカーフの靴に塗り込んだら何とうっすら
色落ちするではありませんか。
びっくりしてPHを調べたらアルカリ性であることが判りました。
ならば「中性のデリケートクリームの方が安全で良いのではないか」と考え
使ってみたところ色落ちはほとんどありませんでした。
では何故アニリンクリームが存在するのか?!
何度も何足も実験を繰り返した結果、「ウ~ン、なるほど!!」と思わず
微笑んでしまいました。
理由は簡単でした。
汚れが落ちるということです。
アニリン染めにはクリーナーが禁物です。しかし、アニリンクリームは
保革の他にクリーナー的な役割も果たすということだったのです。
ここで、アニリンクリームの最良の使い方をご説明しますと、クリームを少量、
靴にまんべんなく塗り一分ほど乾かし、その後磨いてください。
弱めの油分はシミにもならず美しい光沢のベールが出来上がります。
これだけです。
後にベールの上に付くであろう汚れはアニリンクリーム1個で落とせます。
また、同時に栄養、ツヤ出しなど全てをやってのけることができる優れものなのです。
「じゃあデリケートクリームは?」というと、前号でお話した通りロウ分が
無いために表面にベールを作ることにおいて劣ります。
つまり靴にはアニリン専用クリームに軍配が上がります。
最後に皆様からよく聞かれる質問に「アニリンカーフの見分け方は?」
というのがあります。
前述のように革シボが見えて透明感のあるものなのですが感覚でしか
わかりません。感覚を磨くにはメーカーにアニリン染めかどうかを
確認しておき、他の染めとどのように違うのかいつも注意して見比べて、
インプットしておくしかありません。
また、色落ちやシミについて注意すべきアニリン染めは色の薄いものだけです。
それは、シミが目立ったり、色落ちが黒ずんで見えるからです。
黒やダークブラウンのように濃い色は関係ないといっても差し支えありません。
以上がアニリン染めについてのお話でしたが、いやはや私のように化学
(ばけがく)のわからない人間には少々難しい問題ではありました。
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