コードバンのお話
と答えたとしたら、皆さんはどう思います?実は本当なんですよ。
辞書『大辞林』にこう書いてあります。
[スペインのコルドバ産のヤギ皮で製した、ツヤのあるなめし革。
また、これに似せた馬の背、尻からとったなめし革。靴、ベルトなどを作る(全文)]
他の資料にも、
[コードバンはスペインコルドバ地方で生産される毛穴の目立たない滑らかな
ツヤのあるヤギ皮を指していたが同じようなヤギ皮があちらこちらで作られる
ようになったため、いつのまにかそれに極めて似た馬革がコードヴァンレザーと
呼ばれるようになった。]
ということが書かれています。
つまり馬革の方が“ニセモノ”だったのですね。
そうはいってもオジサン流には、「ニセモノだって本物を越えてしまえば
こちらが立派な本物なんだ・・・。」です
コードバンは、馬革の尻部の中でも特に、繊維組織が
超高密度の厚い部分(貝の形をしているのでシェル部
という)を、タンニンで長時間かけてなめし、天然油脂
と染料でじっくりと仕上げツヤを出したものです。
シェル部は皮膚(革)組織断面のほぼ中心部、
わかりやすく言えば銀面と裏面の中ほどにあるため、
シェル部が表に現れるまで裏面を削り取ってから、この部分を磨きこみますので
光っていても革の裏側が表面になるわけです。
表面には表皮がありませんので、“銀浮き”という現象は起きません。
また、引っ掻きによって筋(溝)は付きますが、めくれるように剥がれることも
ありません。
これは他の革の繊維組織が横に流れるように重なっているのに対して、
コードバンは超高密度の繊維組織が縦に並んでいるからです。
その上、牛革よりもはるかに丈夫で型崩れも少ない。
さらに美しいツヤと、馬一頭から靴一足半から二足分しかとれないとなれば
“King of Leather”として、人気が高いのは当然といえば当然ですね。
原産国は、フランス、スペイン、ポーランドなどですが、コードバンを
原皮から仕上げまで行っているタンナーは、世界広しといえども、アメリカに
ホーウィン社の一つしかありませんでしたので、かの有名なオールデンや
アレンエドモンズ、コールハン他のアメリカのメーカー数社に偏っています。
大量生産が出来ないからですが、何よりも丈夫でピカピカしているのは、
アメリカ人好みであったのではないでしょうか。
今ではわが国でもコードバンを供給しているタンナーが数社存在しがんばって
います。
さて、コードバン靴の手入れは?という御要望をたくさん頂きましたので
オジサンなりにお答えいたしますと、こんなに神秘的で特殊な革でも、
基本的には普通の牛革と同じで良いのです。
汚れてきますと輝きがなくなりますから、ステインリムーバーも使って下さい。
靴クリームも乳化性が基本です。仕上げには防水力とより一層の輝きのために
シューポリッシュも必要です。
但し、ワイン系など黒以外の色はカラークリームで手入れをしているうちに、
だんだんと黒ずんできますので、気になる方は最初のうちは無色のクリームから
使い始める方が無難です。
また、光らせたい一心でシューポリッシュだけを単独で使っていますと、
革が乾いてかえってキズが付きやすくなります。
意外と気になるのは、水による小さなシミが出来やすいことです。
これはコードバンが裏革であり、縦型の繊維組織であることを考えれば仕方の
ないことですね。
こんな時は水を絞ったタオルで拭いて湿らせると、目立たなくなります。
これらのことはコードバンに限ったことではありませんので、もっと肩の力を
抜いて気楽に手入れをしてくだされば「なぁ~んだ!」ということになりますよ。
さぁ!ピッカピカにしたら街へ飛び出して颯爽と歩いてみてください。
すれ違う人々の目が、吾が足元に注がれるせん望の視線に、誇らしく
飛び跳ねたくなりそうな昂ぶりを抑えながら、さりげなく・・・。